大江戸商継記
天正十八年、江戸誕生の一月前より
史実に基づく歴史経済シミュレーション(試作版)
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天正十八年(1590)文月。徳川家康が関東へ入る一月前。
同じ江戸を、三つの立場から生きる。難易度ではなく、見えるもの・できること・失うものが違う。
同じ立場でも、生まれた家によって持ち物と背負うものが変わる。どれが有利という順ではない。
世の厳しさを選ぶ。制限時間は設けない。変わるのは元手・相場の荒れ方・災いの重さ・助言の有無だけ。
記録はこの端末の中だけに保存される。別の端末には引き継がれない。
公儀——書付を出す側。現場は自分の目で見られない。
商家——法は決められない。物を動かして食う。
村——天候と土がすべてを決める。
同じ江戸の同じ月を生きるが、見えるもの・できること・失うものが違う。
難易度ではない。三本の別のゲームである。
ひと月に自分で動かせる回数を手数という。移動にも仕事にも手数がいる。 〈歩く〉で場所を移し、その場所でできることをする。 畑の手入れは畑でしか、河岸の荷は河岸でしか触れない。 手数が尽きたら月を送る。
村の立場では、田畑を耕し、時季に合う種を播き、手を入れて穫り入れる。 山と川では山菜・茸・魚・薪が採れる。台所で干し、漬け、膳にすれば、 そのまま売るより値が付く。早採りは量が減るが高く、遅採りは量が増えるが傷む。
〈人々〉で、話す・贈る・手を貸す・頼む、の四つの関わり方がある。 同じ手ばかり繰り返すと効きが鈍る。頼み事は縁を減らして今欲しいものを取る。 縁が浅い相手には頼めない。
体力が尽きた月、鉢の金魚が一匹死ぬ。その代わり、こちらは床から起き上がる。
金魚はあと何度倒れられるかを数えている。尽きた状態で倒れれば、そこで終わる。
減った金魚は、町で医者にかかれば一匹だけ買い戻せる。ただし銭が要る。
持たざる者は祈るほかない——それがこの時代の医療だった。
※ 金魚が庶民に広まるのは江戸中期以降で、天正十八年では舶来の珍品である。
数が少ないのはそのためで、一匹が惜しい。
算盤・鍬・天秤棒・筆・庖丁・網・鑿・口利き——その行為をした回数が、そのまま腕になる。
経験値を配る仕組みは置いていない。畑を耕せば鍬が、品を売れば算盤が伸びる。
腕が上がると、同じ一手で穫れ高が増え、同じ品が高く売れる。
能力値(腕力・器用さ・素早さ・体力・才覚・意志・魅力)は生まれで決まり、ほとんど動かない。
動くのは技のほうで、これが何をして生きてきたかの記録になる。
〈人々〉の人物帳で見られる。
場所を移せば、道で何かに出会うことがある。山と川がいちばん危うく、町は人目があるぶん少ない。
手は四つ——腕づく・銭で片づける・話をつける・逃げる。
どれが通るかは、能力値とこれまで振ってきた技で決まる。
相手が山賊や野犬なら腕づくが通るが、狐・天狗・河童・鬼火には効きにくく、
話をつけるほうがよく効く。
※ 妖怪は「当時の人が本当にそう理解したもの」として出している。
道に迷えば狐に化かされたと言い、山で説明のつかないことが起きれば天狗の仕業とした。
当時これは比喩ではなかった。
縁が四十まで深まった者は、道に連れて出られる。三人まで。
〈人々〉の人物帳でその人を選び、「道に連れて出る」を押す。
連れは荷物ではない。食い扶持と給金がかかり、傷つき、離れる。
奉公人や職人には月々の給金が要り、家の者には要らない。
難所では、その人が何で食っているかによって加勢の仕方が変わる。
棟梁の権兵衛と船頭の藤助は腕づくに、番頭の佐平は銭で片づけるに、
寺僧の了海は話をつけるに力を貸す。
連れがいれば主人の受ける傷は軽くなるが、その分は連れが負う。
体が尽きた者は数月のあいだ養生に退く。抜けるのではない、戻ってくる。
難所を共に切り抜けるたび連れ添いの段が上がり、加勢が強く、体も丈夫になる。同じ道を何度も一緒に歩けば、呼吸が合ってくる。
この作の題である。当主は正月ごとに一つ年を取り、老いれば体の戻りが鈍る。
齢が尽きるか、鉢の金魚が尽きて倒れれば、暖簾を渡す日が来る。
渡すとき、残るものは身代・町の造作・家の名・積んできた軸。
薄れるものは人との縁——先代の顔は次代の顔ではない。連れは一度解ける。
消えるものは技である。腕は体に付くもので、書いて渡せない。
ただし自分で使った技だけは、仕込みとして次代へ渡る。
使わずに段だけ上がった技は残らない。
継ぎ方は五つ——実子・婿養子・番頭・後家・養子。
番頭に継がせれば腕がよく残り、婿養子なら算用に明るい代になる。
誰に渡せるかは、その人との縁の深さで決まる。
金魚が尽きての死は、不慮の代替わりになる。教える間もなかったのだから、
腕は何ひとつ渡らない。婿を探す暇もない。
算盤勘定=身代(銭と荷)。
暖簾勘定=信用。約束を守るほど積もる。
暮らし勘定=家族と町。
結末はこの三つすべてから作られる。金だけ積んでも「良い終わり」にはならない。
難易度は制限時間を課さない。変わるのは元手・相場の荒れ方・災いの重さ・ 値動きの筋目が見えるかどうか、それだけである。 考える時間はいくらでも取ってよい。
家康の入府も、関ヶ原も、幕府の成立も必ず起きる。変えられるのは「誰がどう生きたか」と「町に何が残ったか」だけ。〈物語〉の画面で史実の注記と出典の区分が読める。
行動のたびに自動で書き留められる。表紙の「続きから」でいつでも再開できる。
試し版はここまで
試し版でも、ここまでで一つの区切りです。
葦しかなかった土地に、あなたの店の暖簾が下がりました。